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「ヘイト・スピーチ」の定義と法規制について 

「ヘイト・スピーチとは何か」

昨年12月に岩波新書で「ヘイト・スピーチとは何か」(師岡康子著)という本が出ているようです。内科医さんが、読書感想文を書いていたので、ちょっと論考。

 

論点は2つ。

 

  • ・ヘイトスピーチの定義
  • ・ヘイトスピーチを法的に規制すべきかどうか





師岡氏はヘイトスピーチを「人種・民族・性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃」と定義

ヘイトスピーチの定義について、師岡氏は本の中で、「人種・民族・性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃」と定義しています。これは、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムという概念が30年前から議論されていたアメリカでの経緯を踏まえた定義です。ちなみに、日本ではつい数年前まで「増悪表現」って訳の方が一般的でした(概念自体がほとんど知られていませんでしたが)。

 

「マイノリティに対する差別」というと、マジョリティ(多数派)に対する差別は問題ないのかって話になってきます。で、そもそも差別ってなんやねん、という話も。

 

ヘイトスピーチの定義

わたしは、歴史的経緯がそこまで重要だとは考えていませんが、「ヘイトスピーチの規制」との関連で定義は狭く厳格にとらえるべきだと考えています。ですから、マジョリティに対する差別は一旦除外し別問題として議論するって方向性が望ましいかなぁ、と。ただ、マイノリティとしてもちょっと範囲が広いので、「人種・性別」など具体的に限定列挙した方がいいんだろうなと思います。差別という概念もあいまいなので、「憎悪・偏見を表明する言論」と置き換えた方がいいでしょう。

 

ヘイトスピーチの法的規制

さて、定義を以上のように限定した後は、法的規制の問題。今の日本は、ヘイトスピーチは法的に規制して当然・悪いことだからって感じの風潮になっていますが、わたしはヘイトスピーチを規制する法律を作るってのは反対です。「表現の自由を制限することになるから」ってのがよく言われる理由ですが…「政府が表現に関する規制をすると、無制限に範囲が拡大してしまい国民の行動の自由に大きな制約が課せられる可能性があるから」、というのがわたしが反対する理由です。

 

ヘイトスピーチの法規制については、憲法学上大きく2つの考え方が存在しています。

 

  • A・ヘイトスピーチはそもそも表現の自由に含まれない(憲法上そもそも保障されていない)
  • B・ヘイトスピーチといえども憲法上保護される表現の自由に含まれる

 

在特会の行動なんかを見ているとAでいいじゃないかと思ってしまいがちなんですが、実際に法規制をするのならBでいったん保護範囲内に含めて、慎重にバランシングさせた方がいいんじゃないかと思われます(Bの考え方にも、保護されるが規制・禁止できるという考え方が含まれる)。具体的には、ヘイトスピーチと定義づけられた表現の中でも、憲法上・刑法上許容できないような表現だけをターゲットとして規制を加えていくという方向が好ましいと思われます。 侮辱や名誉棄損に該当するような過激な表現に絞って規制というのが結論になるでしょうか。

 

仮にヘイトスピーチを制限する立法が進められるとしたら、定義も含め徹底的に議論をつめてほしいところ。

 

記事引用

琥珀色の戯言:【読書感想】ヘイト・スピーチとは何か から引用

 

「ヘイト・スピーチ」という言葉、最近よく耳にするようになりました。

 

ただ、それは最近になって増えてきた、というよりは、日本でもようやく本格的に問題視されるようになってきた、ということのようにも思われます。

 

そもそも、ヘイト・スピーチとは何か?

 

最近になって広まってきた言葉であり、「中傷」であることはわかるけれど、そのなかでもどれが「ヘイト・スピーチ」にあたるのか?

 

著者は、この新書の冒頭で、こう書いています。

 

 2013年に日本で一挙に広まった「ヘイト・スピーチ」という用語は、ヘイト・クライムという用語とともに1980年代のアメリカで作られ、一般化した意外に新しい用語である。日本では「憎悪表現」と直訳されたこともあり、未だ一部では、単なる憎悪をあらわした表現や相手を非難する言葉一般のように誤解されている。そのことが、法規制をめぐる論議にも混乱を招いている。

 

 1980年代前半、ニューヨークを中心にアフリカ系の人々や性的マイノリティに対する差別主義的動機による殺人事件が頻発したことから、85年にはヘイト・クライムの調査を国に義務付ける「ヘイト・クライム統計法案」が作成された。これが「ヘイト・クライム」という用語のはじまりと言われている。同時期に、大学内で非白人や女性に対する差別事件が頻発したことに対し、各大学は差別的表現を含むハラスメント行為を規制する規則を採用するようになった。「ヘイト・スピーチ」という用語はその広がりに伴って使われるようになった。このように、その成立の経緯から見て、ヘイト・クライムもヘイト・スピーチもいずれも人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃を指す。「ヘイト」はマイノリティに対する否定的な感情を特徴づける言葉として使われており、「憎悪」感情一般ではない。

 

「ヘイト・スピーチ」という言葉が広まるにつれて、罵詈雑言と「ヘイト・スピーチ」がイコールである、というような使いかたをしている人もいるようなのですが、原義は「人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃」です。

 

「多数派(マジョリティ)からの、少数派(マイノリティ)への攻撃」なのですね。

 

 この新書のなかで、著者は「ヘイト・スピーチに対する、日本と世界の現状」を紹介しています。

 

 日本にはヘイト・スピーチが蔓延している。その対象は、在日朝鮮人だけではない。ニューカマーの韓国人、中国人、ブラジル人などの様々な国籍の、また旧植民地出身者、移住労働者とその家族、難民(申請者)、非正規滞在者など、多様な立場の外国籍者や民族的マイノリティに及んでいる。アイヌや沖縄の先住民族にもその刃は向かう。被差別部落の人々、女性、障がい者、性的マイノリティもターゲットとなっている。

 

 また発信者は主要に公人、マスコミとそれ以外に分けられるが、媒体としてはマスコミ、本、漫画やリーフレット、ビラの他、インターネットが大きい。そして、直接的な表現形態としての排外主義デモ、街宣(街頭宣伝)がある。ヘイト・スピーチの中でも最も悪影響をもたらす公人によるヘイト・スピーチは、ほぼあらゆるマイノリティを攻撃対象としてヘイト・スピーチを撒き散らしてきた石原慎太郎前東京都知事、現・衆議院議員(日本維新の会共同代表)の発言に見るごとく、野放し状態である。

 

 しかし、それは世界の常識ではない。2013年7月、欧州議会は、欧州議会議員マリーヌ・ルペン国民戦線党首の不逮捕特権を剥奪することを決めた。問題となったのは、ルペンの2010年のリヨンでの演説で、イスラム教徒が路上で礼拝を行っている様子をナチス・ドイツのフランス占領に例えた発言である。起訴され、有罪となれば最長一年間の禁錮刑と罰金4万5000ユーロ(約610万円)を科される。

 

 この新書では、「在特会」によるヘイト・スピーチなどが、実例を挙げて採り上げられているのですが、日本のヘイト・スピーチは、在特会によってのみ行われているわけではありません。

 

 ネット上では被差別部落へのヘイト・スピーチがあふれていますし、1997年には、日系ブラジル人少年へのリンチ殺人事件も起こっています。

 

 僕も海外での移民排斥運動のニュースを聞くたびに「それに比べて日本は平和でよかったなあ」なんて思っていたのですが、実際のところ「日本はヘイト・スピーチに甘い国」なだけなんですよね。

 

 石原慎太郎前都知事の発言なんて、かなり酷いものばかりなのですが、そういうのが「ホンネで喋ってくれる人」みたいな感じで、案外受け入れられているところもあるのです。

 

 1962年の国連総会で「あらゆる形態の人種差別発言の撤廃に関する宣言案及び条約案の作成」が共同提案され、1964年に条約が採択されました。

 

 この条約は1969年に発効し、2013年11月の時点では、国連加盟国193ヶ国中9割以上の176ヶ国が参加しているそうです。主要な人権条約の中では子どもの権利条約に次いで締約国が多いのだとか。

 

 日本がこの条約に加入したのは、なんと1995年。141ヶ国目でした。

 

 日本政府は、2013年1月提出の報告書において、ヘイト・スピーチ規制について、

 

(1)「正当な言論までも不法に萎縮させる危険を冒してまで処罰立法措置をとることを検討しなければならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の煽動が行われている状況にあるとは考えていない」とし、

 

(2)「現行法で対処可能」

 

(3)啓蒙などにより「社会内で自発的に是正していくことが最も望ましい」

 

(第一・二回政府報告書第75項より引用)等の従来の主張を繰り返している。

 

 しかし、2010年3月の委員会勧告後にヘイト・スピーチ関連で裁判になっている事件だけでも、京都朝鮮学校襲撃事件、徳島県教祖襲撃事件、奈良水平社博物館差別街宣事件、ロート製薬脅迫事件があり、まさに「処罰立法措置をとることを検討しなければならないほど」に「人種差別の煽動が行われている状況にある」ことは明らかであろう。政府報告書は、これらの裁判について一言も触れていない。判例を掲載しなかった理由について、政府報告書作成担当の外務省の官僚は、判例については知っているが、報告書の枚数が制限されているからと言い訳した(2013年5月17日人種差別撤廃NGOネットワークの政府との意見交換会における発言)。

 

 いま、実際に日本で起こっていることをみると、これはあまりにも現状認識が甘いと僕も思うのですが……

 

 それにしても、ヘイト・スピーチを規制することに、なんでこんなに消極的なのだろう?

 

 日本政府にとって、何か不都合なことでも、あるのでしょうか。

 

「マンガの表現規制」には、けっこう積極的にみえるのに、「ヘイト・スピーチ」関連では、そこまで「表現の自由」を大事にしているのかねえ。

 

 この新書を読んでいると、世界各国も、ヘイト・スピーチに悩まされているようです。

 

 黒人差別の撤廃が、半年前にようやく法整備されたアメリカはもちろん(アメリカは人権に関しては「後進国」であると、著者は指摘しているのですが)、第二次世界大戦後の戦後処理について、日本とよく比較されるドイツ(西ドイツ)も、けっして平坦な道を歩んできたわけではありません。

 

 第二次世界大戦終了後、ニュルンベルク国際法廷で主要な戦犯が訴追され、占領規定でもナチス標識の使用やナチスに関連した政党の活動が禁止された。1949年に制定された西ドイツの基本法(憲法)では、性別、血統、人種、言語、出身地、宗教等による差別禁止が明記されている。

 

 しかし戦犯訴追は徹底されず、戦犯が次々と政界・経済界に復帰し、虐殺された被害者や遺族に対する賠償責任もなされなかった。1948年の世論調査では「ナチズムはよい理念だが、実行の仕方がまずかった」という意見に58%もが賛同したという。1950年代には、元ナチス関係者らを中心にユダヤ人協会に対する襲撃やナチス犠牲者の記念碑を汚す行為が相次ぎ、1959年のクリスマスには、前述したようにケルン市における反ユダヤ主義の大規模な騒動が発生、西欧社会全体のネオナチ運動の引き金となった。

 

 これらの「反動」に対して、西ドイツでは、ヘイト・スピーチへの刑事規制が具体化していったのです。

 

 どんな歴史的悲劇も、人をそう簡単に変えることはできません。

 

 それは、日本もドイツも同じ。

 

 ただ、ドイツが危機感を抱いてヘイト・スピーチを積極的に規制し、変えようとしてきたのに対して、日本は「そんなにひどい差別はない」と自分に言いきかせてきたのです。

 

 日本でヘイト・スピーチ規制に慎重論をとなえる人たちにも、それなりの理由はあるのです。

 

 まず、日本では戦前、権力が批判的な言論を違法とし弾圧した歴史を踏まえるなら、政府が一定の内容を「悪い」「不適切な」表現と認定し規制することは危険であるとの主張がある。すなわち、一定の人々にとっていかに「不快」でも、ヘイト・スピーチを権力が表現内容に基づいて「不快だから規制する」と結論づけることは許されないという主張である。ヘイト・スピーチ規制を認めると、他の「悪い」表現、例えば政府批判を政府が規制することに道を開いてしまうという者もいる。主にアメリカの判例理論、とりわけ前述のブランデンバーグ判決の基準を引用し、ヘイト・スピーチの規制は、暴力行為を直ちに行うよう煽動し、かつ、暴力行為を引き起こす差し迫った危険性があるものい限定すべきとの主張もある。

 

 正直、この考え方も、わからなくはない。

 

 というか、言われてみれば、それもそうなのかな……とも思えるのです。

 

 日本でも、ヘイト・スピーチをきちんと規制していくべきだと僕は考えています。

 

「ヘイト・スピーチの原義」に従って規制すれば、「不快だけを理由にした規制」と、一線を引くことは可能だと思うので。

 

 あれこれ慎重に考えているうちに、時間ばかりが過ぎていく……というのが現状なのかもしれませんね。

 

 ヘイト・スピーチが「単なる不快な発言」ではなく、「人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃」だということが、日本で、もっと周知されれば良いのですけど。

 

参考資料

 

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1794efa038cd41a2f690b1159735e3af 600x400 「ヘイト・スピーチ」の定義と法規制について 




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