1300年ぶりの欧州外からのローマ法王が欧州議会にてスピーチを行いました。内容はヨーロッパの内向きな姿勢に対して疑問を提起し、社会的弱者に寄り添うこと、また移民なども積極的に受け入れていくべきとのこと。欧州外からやってきた新しい風が、欧州のドアを開くのでしょうか。
ローマ福島良典】フランシスコ・ローマ法王は25日、フランス東部ストラスブールにある欧州連合(EU)の欧州議会で演説し、欧州が「内向き」にならず、高齢者や貧困者、移民に対する連帯の精神を実践するよう呼びかけた。ローマ法王の欧州議会訪問は1988年10月の故ヨハネ・パウロ2世以来、26年ぶり2度目。
フランシスコ法王は演説で「世界は『欧州中心』でなくなり、欧州はやつれ、世界の主人公ではなくなっている」と述べ、欧州経済危機を受けて高齢者や若者、貧困者の孤独が深まっていると指摘。「(移民船の遭難が続く)地中海が巨大な墓地になるのは容認できない」と語り、移民の受け入れを促した。
バチカンのお膝元である欧州では近年、宗教離れが進んできたが、フランス人のバチカン専門記者によると、飾らない人柄で人気のフランシスコ法王の就任以来、カトリック信仰回復の傾向が出始めているという。
フランシスコ法王はカトリック史上初の中南米出身法王。欧州域外出身の法王誕生は約1300年ぶりで、バチカン(ローマ法王庁)の「脱欧州」の流れを印象付けた。昨年3月の就任以来、社会的弱者に寄り添う「貧者の教会」路線を打ち出している。
情報整理
さて、まずは情報を簡単に整理していきましょう。フランシスコ・ローマ法王が欧州議会にて演説。内容は「高齢者、貧困、移民などへの共感」それに関連して、移民などに対して内向きな傾向を見せつつある欧州に対して変化を求めたものです。
欧州議会という政治的な場所に法王がやってくるのは1988年ぶり、かつ欧州外から出た法王としては実に1300年ぶりということで、閉塞した共同体に新しい風を呼ぶことができるのかもしれません。
ローマ法王って
よくニュースで見たり聞いたりするけれども、実際ローマ法王ってどんな存在なのでしょうか。世界にはたくさんのカトリックに関する教会があり、それぞれが教区というグループに分類されます。そしてどの教区にも「司教」という役割の人が存在しています。地域マネージャーを想像するとわかりやすいでしょうか。
そこで、教区の中で最も権威を有しているのがローマ司教区になります。ここの司教になるということが、すなわち法王になるということなんですね。これが意味するのは、全カトリックにおける最高指導者ということです。
国家、地域を超えた宗教の力
さて、そのような絶大なる力を持つ教皇ですが、宗教のすごいところは国家も地域も超えた価値観であるというところです。(そもそもキリスト教の始まりは、現行宗教への反発でした。すなわち、移民を受け入れようと動きを「反国家的である」というような形で批判するのはそもそも筋違いということです)
最近のISISを見ていると、まあそれが思いっきり悪い方向に(あるいは暴力的な形で)顕在していますが、裏を返せば国家や地域を超えた「共感」を生み出すものでもあるわけです。しかも欧州外からの法王ということもあり、欧州が「内向き」になることは色々感じるところがあるのでしょう。
日本より欧米のほうがチャリティが多いと言われる要因の一つが、こういった宗教的価値観ということは否めないでしょう。ミャンマーなんかも宗教の教義的に物凄く寄付の割合が高いと聞きます。
最近の欧州の雰囲気
さて、このようにローマ法王が出張ってくるくらい欧州の現状は内向きなのでしょうか。現状を如実に示すものとして、欧州議会における議席数がわかりやすい例になるでしょう。
欧州議会選で反EU政党が躍進、中道右派が最大会派の座維持へ | ワールド | 欧州 | Reuters |
このように、ヨーロッパ全体のことを考えるための議会の方向性として、かなり内向きになっていることは否めません。また、フランス国内でも右派が台頭しており、最近ではすっかりオランド率いる左派への期待感が薄らいでいる印象です。
第二次世界大戦後の労働力不足から積極的に植民地から移民を入れてきたことで、それ以降の欧州の経済発展があったことを考えると、必ずしも「移民」が経済衰退の主たるファクターとは言い切れない部分があると思います。(経済は専門とは言えないので詳述はできません)
しかし、わかりやすい「属性」を攻撃したがるのはどの国も同じ。それに対して敏感に空気を察知したローマ法王がやってきた、というのが大きなストーリーでしょうか。
まとめ
キリスト教的な「社会的弱者に寄り添う」という価値観を、内向きになって誰かの貧困を無視しようとしている欧州に対してしっかりとぶつけてきたローマ法王、という印象です。また、移民だけではなく「貧困や高齢者」についても言及しています。
フランスの年金制度は日本と同じく、若者がお年寄りを支えるシステム。少子高齢化に伴い、そのシステムには大きな変更が求められています。イギリスでは逆に積立方式を採用しており、本当の意味で「自分の分は自分で」を体現している様子ですが、その移行はかなり痛みが伴うのは間違いありません。
先進国全体が共有するこの手の問題に対して、どこがリーディングケースとなっていくのでしょうか。日本がそのような国家像を示すことができそうもない、と思ってしまうのは筆者だけではないでしょうが…。
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