『嫌われる勇気』とは、アルフレッド・アドラーが提唱するアドラー心理学の考え方の1つ。
昨今のコロナ禍にあって世の中は大きく変わり、それに伴って人が様々に抱える悩みもより複雑になってきました。
中でも人間関係は私たちが社会を生きていく上で避けては通れない問題であり、なんとかしたいと思っている方も多いのではないでしょうか。
『嫌われる勇気』は、そんな人間関係に悩む方にとっての参考書ともいえる作品であり、相手ではなく「自分が変わること」の重要性を説いています。
「今の自分を少しでも変えたい」、そんな方にぜひ読んでいただきたいとの思いから、今回『嫌われる勇気』を取り上げました。
日本でも知られている心理学者といえばフロイトやユングが思い浮かびますが、世界的に見れば、この2人にアドラーも加えた「三大巨頭」が一般的であるといいます。
『嫌われる勇気』は、日本ではあまり知られていないアドラー心理学について、青年と哲人の一対一の対話形式で解説されたもの。
その評価の中には、「難しい」「理解できない」といった意見もあるようです。
『嫌われる勇気』は本当に難しいのか。
感想、要約などとともにまとめてみました。
『嫌われる勇気』の要約

まずは、『嫌われる勇気』の要約から書いていきます。
本作の主人公は、人生に悩む若き青年と1人の哲人。
自分のことが嫌いで嫌いで仕方がない青年は、結局人間は変わりたくても変わることができない生き物だと考えています。
一方で哲人は、人は今日から変わることができるし、必ず幸福になることができると説きます。
そのために必要なのは「勇気」、そして人間理解の真理を説いたアドラー心理学を学ぶこと。
青年は哲人を論破してやろうといきり立ち、2人の一対一の対話が始まりました。
第一夜 トラウマを否定せよ
第一夜のテーマは、過去のトラウマや不幸の考え方について。
アドラー心理学では、過去のトラウマが今の不幸の原因になっているとは考えません。
自分の持って生まれた性格や過去そのものを嘆くのではなく、そこにどんな意味を持たせ、人生を切り拓いていくかが重要だと述べられています。
第二夜 すべての悩みは対人関係
アドラー心理学の根底にある概念、それは「すべての悩みは対人関係にある」ということ。
人は対人関係なくしては生きられないものですが、だからといって他者と自分と比較ばかりしていては、いつまでたっても変わることはできません。
そうならないためにも、他者との優劣や勝ち負けにこだわるのではなく、自分の過ちに気付いたときにはすぐに謝罪することなどが大切だと述べられています。
第三夜 他者の課題を切り捨てる
「承認欲求」によって他者から認められることが人間を突き動かす原動力になると青年が主張する一方、アドラー心理学では承認欲求は認めていないと哲人はいいます。
対人関係をスムーズにするのは承認欲求ではなく、自分と他者の課題を明確にし、それを分離すること。
この「課題の分離」が、対人関係における入口であると説明されています。
第四夜 世界の中心はどこにあるか
青年は、自分の人生を長編映画にするならば主人公は間違いなく「わたし」であり、それのどこがいけないのかと主張します。
しかし、哲人によると、「わたし」は確かに人生の主人公ではあるけれども、世界の中心に君臨しているわけではないとのこと。
この章では、自分の価値を見いだすためにはどう生きればよいのかが述べられています。
第五夜 「いま、ここ」を真剣に生きる
過去がどうだったから今がこうなのだ、といった原因論的な考えは、アドラー心理学では否定されます。
そしてまた未来についても、今がどうだから未来はこうなる、といった考え方はしていません。
自分の人生を決めるのは過去でも未来でもなく、あくまで「いま、ここ」という瞬間であり、その「いま、ここ」を丁寧に、真剣に生きることが大切であると述べられています。
『嫌われる勇気』は難しい?理解できない?

『嫌われる勇気』は、ひと言で表すならととても難しい内容の本だといえるでしょう。
本作は心理学だけではなく哲学的な考察も含まれており、根底には「人間とは何か」「幸福とは何か」といった問いが横たわっているからです。
その問いに対する答えは様々であり、万人にとって納得のいく答えというものは存在しません。
『嫌われる勇気』で青年が考えていることは恐らく世の中の人びとが一般的に抱いている疑問であり、青年は我々の代弁者であるといえるでしょう。
自分のことが嫌いで自分に自信がなく、コンプレックスの塊である青年にとっては、アドラー心理学の考えは時に理解しがたい面もあり、青年が激昂する場面もありました。
たとえば、今現在の自分の不幸は過去の原因によるものではなく、自らその不幸を選んだ結果である、という内容。
自らが不幸を選んだなんて言われると「そんなバカな!」と怒りたくなる人も多いでしょう。
自分から不幸を望む人間はいないし、今の自分は過去の自分があってこそと考えるのが自然ですよね。
しかし、アドラー心理学によれば、今の不幸は不幸な境遇に生まれたからでもなく、不幸に陥ったからでもなく、不幸であることが自分にとって必要な善だと判断したから、だというのです。
もうこれだけで頭が混乱しそうですが、たいていの人にとっては、こうした考えは理解しようにも、なかなか受け入れられないものですよね。
苦しんでいる当事者の気持ちを完全に理解することなど、誰にも出来ません。しかし、自らの不幸を「特別」であるための武器として使っている限り、その人は永遠に不幸を必要とする事になります。#嫌われる勇気
— 詩 (@Dear_us7) February 8, 2022
青年もまた同様に理解に苦しみ、ここから哲人との様々な語らいが始まるわけですが、その内容はとても深く、非常に考えさせられます。
『嫌われる勇気』の感想

ここからは、『嫌われる勇気』の感想について書きます。
本作に書かれていることは自分自身の胸にもグサグサと刺さることがたくさん書かれていました。
その中でいちばん心に残ったのは、「嫌われることを恐れるな」ということ。
まさに本作のタイトルでもある、「嫌われる勇気」ですね。
誰だって、人からは嫌われたくないと思うものです。
自分自身、職場や交友関係で「嫌われないように、嫌われないように」とまるで呪文のように言い聞かせていたことを思い出しました。
でも、そうやって「嫌われないように」行動すればするほど、なぜか嫌われるものなんですよね。
考えてみれば、世の中の人間全員から好かれるなんてありえないし、自分にだって嫌いな人間はいるのに自分のことは誰からも嫌ってほしくないなんて、虫が良すぎるというものです。
嫌われることを恐れて、他人から見た自分がどう映るかばかりを気にしていた頃の自分は本作の青年と重なる部分も多く、うんうんと思わずうなずいてしまいました。
「嫌われる勇気」を読みました。
— maki (@maki_sun_) February 19, 2022
青年がネガティブすぎて過去の自分かと思ってびっくりした…。
別段何か悩んでるわけじゃないからそんなに解決策求めてなかったけど、人間関係に悩んでる人は読むとなんかヒントあるかもしれない。悩んだ時に再読したいなって思う。#読了 pic.twitter.com/QrQS82qESS
「人は変われない」とかたくなに主張する青年の気持ちは、当時の自分もそんな人間だったから、痛いほどよくわかります。
でも、アドラー心理学のいう「人は変われる」というのは本当にその通りで、自分がこれからどう生きていくのか、そのカギを握るのは他人ではなく自分次第なんですよね。
本気で「変わりたい」と思うからこそ「いま、ここ」を真剣に生きる。
「変わりたい」と思いつつも「どうせ変われない」から現状に甘んじて生きる。
どちらが幸福かを決めるのも自分次第。
どんな自分であっても、その生き方に自信を持つことができたなら、周囲から嫌われようが、どう評価されようが、大きく構えて生きていけるんですよね。
とはいいつつ、やっぱり人から嫌われたくないのが本音ではあるのですが。
本作に書かれていることすべてを実行するのは難しいけれど、取り入れられるところは取り入れていきたいなと思いました。
まとめ

『嫌われる勇気』は難しいのか、感想や要約とともに解説してきました。
本作に貫かれている大きなテーマは、「人は変わることができる」ということです。
変わりたいと思っても、よほど大きなきっかけがない限りなかなか「変わる」って難しいものですよね。
そこには「変わること」に対する恐れや不安、そして結局は今のままでいたほうが楽だからという考えが潜んでいると本作では解説されています。
「変わる」ことはまた、「嫌われることを恐れない」ということでもあります。
誰だって人から嫌われたくなんかないけれど、嫌われることを恐れていては自分の人生を生きることはできません。
また、他者からの評価ばかり気にしていると、そのうちに「他者が望む自分」として生きることになってしまうといいます。
それでは窮屈ですし、たった一度きりしかない人生、せっかくなら後悔することなく生きていきたいですよね。
少しでも、今の自分を変えたい。
そんな方にとって、この本は何か生きるヒントを与えてくれるのではないでしょうか。